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「黒い影」緒方あきら

 Aさんは夜ごと奇妙な悪夢に悩まされていた。
 夢の中でベッドで横になっている自分に、不可解な足音が近づいてくるのである。
 その夢は連日見続けるそうで、ある日迫っていた足音が止みAさんの部屋のドアが開けられた。

 ドアの向こうから顔を覗かせたのは、黒い影だけの小さな子供であった。
 部屋に入ってきた影が、Aさんの体のうえにのったところで目が覚める。
 翌日の夢のなかでは、Aさんの体のうえに子供がはしゃぐように立っていた。
 重苦しさに手で払おうとするも、すり抜けてしまい、どうすることも出来ない。

 「キィ」「ヒィ」

 黒い影は言葉にならない声を発しながら、Aさんをあざ笑うかのように彼女の体のうえで遊んでいる。
 歯を食いしばって力を込めてみても、身じろぎひとつ出来ない。
 そしてどこからかもうひとつ、黒い影の子供が近寄ってきた。
 ふたつの黒い影。
 Aさんの脳裏に、かつて亡くしたお腹の中にいた子供たちのことがよぎったという。

 ――ああ、この影は私の子供なんだ。

 頭の片隅にはそんな馬鹿なという思いもあったが、夢のなかのAさんは何故か腑に落ちたのだという。
 ジリジリと寄ってくる。逃げられない。
 もうひとつの影も、Aさんの体のうえにのってきた。どうしても、影を振り払えない。
 思うように体が動かないのに、意識だけは妙にはっきりしている。

 そんな夢を見る日が一週間ほど続いた。
 Aさんの体重はすっかり減ってしまい、頻繁に立ち眩みを起こすようになった。
 どうしても眠ることが出来なくなり、ある日お酒を大量に飲んで無理やり睡眠の淵に落ちた。

 虚ろな夢のなかで、Aさんは黒い霧のなかにたたずんでいる。
 手探りで歩くと、霧の奥にふたつの黒い影を連れた目も鼻もない老人が立っていた。

「この子たちを育ててくれてありがとう」

 しゃがれた声でそう言い残して、大量の荷物を風呂敷に包んで背負った老人が消えた。
 老人を追うようにして、 ふたつの黒い影も霧の向こうへ消えていく。

 闇の中に沈んでいく感覚とともに、真夜中に目を覚ます。全身を嫌な汗が包み込んでいた。
 それっきり、黒い影の夢は見なくなったのだという。

「でもね。今も体重が減り続けているの」

 Aさんはやつれた顔で、弱々しく言って笑った。

総評コメント

 夏休みということで、「子供」にちなんだ実話怪談がテーマ。全体的な傾向としては、ノスタルジックな怪談が多く、甘苦しい記憶の中にふっと差す影のような、抒情的な味わいの作品が目立ちました。
 最恐賞は、不穏な空気を纏いながら終わる不気味な夢の話「黒い影」(緒方あきら)。繋がりそうで繋がらない因果の点、言い知れぬ不安と恐怖が後を引く作品でした。佳作には、直接面識のない二人の少女に起こった怪異「イマジナリー」(かごさんぞう)、ゴミ収集車の作業員が見てしまった恐怖「収集車の中に…」(低迷アクション)、子供の口から出てくる謎の言葉とその後「それとも、地獄見るか?」(鈴木捧)の3作を選出。いずれも独自性・意外性があり、1000字以内という短さながら、展開に引き込まれました。その他最終候補に、子供の頃に遭遇した怪をノスタルジックにつづった「運動会での出来事」(斉木京)、「幼名」(相沢泉見)、「指の思い出」(山田夏生)、不可解な現象の中に仄めかされる暗示的な恐怖「モデルハウス」(音隣宗二)が残りました。いずれもレベルが高かったと思います。
 今回は応募作品数も多く、やはり選考の第一段階として基本的な文章力、読みやすさは求めさせていただきました。読者が一読してすっと場面・状況を理解できるように、一文の長さや読点の打ち方など今一度確認してみてください。1000字という縛りの中では冒頭のつかみは非常に大事です。
 また怪現象=霊と断定し、疑問もはさまず受け止め進んでいくパターンが想像以上に多いです。霊感がある方、心霊体験をお持ちの方が陥りやすい傾向ですが、多くの読者さんはそうではありません。なぜ霊の仕業とわかるのか、なぜ怖がらずに平然と受け止めていられるのかと疑問に感じ、距離を感じてしまうこともしばしばです。一般人の感覚を念頭に置かなければ、「恐怖」を感じさせるポイントがずれてしまうことになりかねませんので、そこは注意していただきたいところです。
 さて、次回8月は「旅」に纏わる怖い話。旅先での恐ろしい実体験、観光地、ホテル、移動の交通など、さまざまなシーンでの恐怖をお待ちしております!

【第17回・募集概要】
お題:旅に纏わる怖い話

原稿:1,000字以内の、未発表の実話怪談。
締切:2019年8月20日24時
結果発表:2019年8月29日
☆最恐賞1名:Amazonギフト3000円を贈呈。
       ※後日、文庫化のチャンスあり。

  佳作3名:ご希望の弊社恐怖文庫1冊、贈呈。

応募方法:下記「応募フォーム」またはメールにて受け付けます。
フォーム内の項目「メールアドレス」「ペンネーム」「本名」「作品タイトル」 を記入の上、「作品本文(1,000字以内)」にて原稿ご応募ください。


メールの場合は、件名に【怪談最恐戦マンスリーコンテスト8月応募作品】と入力。 本文に、「タイトル」「ペンネーム」「本名」「メールアドレス」を記入の上、原稿を直接貼り付けてご応募ください。

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