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「製本屋」鬼志 仁

 都内で製本屋をやっているEさんから聞いた話。
「出版不況で仕事が減って困っていたんです。で、あんな仕事を受けてしまって……。悔やんでも悔やみきれないです」

 数年前、Eさんはホームページを作って個人からの注文を受けるようになった。
「1冊単位で作りますって謳(うた)ったら、ちょこちょこ仕事が来るようになりましてね。自伝や同人誌、結婚式の引き出物用とか。ただ、手間が掛かる割には儲からなくて」
 そんな時、メールで注文が来た。原稿が添付されていて、文庫本1冊くらいのボリュームだったという。発注者は30代の女性だった。
「添付ファイルを開いてみると、縦書きで、自分を捨てた男への恨み辛みが延々と書かれていたんです。いつもならお断りするんですが、規定の倍払うと言うし……。ちょうど、うちの娘がシングルマザーで出産を控えていまして何かと物入りだったので、つい受けてしまったんです」
 希望部数はたったの2冊。男に送り付けるつもりなのは分かっていたが、仕事だとEさんは割り切った。
 その後、Eさんが『そういう本』を出してくれるという噂が広まったらしく、コンスタントにそっちの仕事(Eさんは『裏の仕事』と呼んでいました)が来るようになった。
「裏の仕事のお蔭で業績が改善して、生活に余裕が生まれました。あの頃が一番良かった時期だったんですよ」
 ある日、20代の女・Rから裏の仕事が来た。自分の恋人を奪い結婚した女への恨みが、400字詰め原稿用紙200枚ぐらいの量で書かれていたという。
「添付ファイルに自分で描いたと思われるイラストまでありました。相手の女性の手足がバラバラになった絵や、首から派手に血がふき出している絵とか……」
 ただ発注部数が変だった。
「219部。どうしてこんなに中途半端な数字なんだろうと思いましたけど、規定の3倍払うと言われたので受けたんです」
 完成した本を送ってから数週間後、Eさんのもとに刑事が訪ねて来た。
「Rは恋人を奪った女が妊娠したと知ると、あの本を毎日、相手の家の郵便受けに入れていたんです。そうやってプレッシャーを与え続けて流産させるつもりだったんです。219は出産予定日までの日数だったというわけですよ。結局、悲劇が起きる前に、警察に捕まりましたけど」

 Eさんはそれ以来、裏の仕事は一切していないという。

「ほぼ同じ時期に娘が出産したんですが死産でした。絶対、私のせいですよ……」
 そう言ってEさんは肩を落とした。

総評コメント

 5月のお題は「本に纏わる怖い話」。書名は伏せてあるものの、実際に流通している本から、自家製本と思われるもの、そして“この世に存在するか定かではない本”まで様々な怪異譚が寄せられました。この中で、「この世のものではないかもしれない本」に纏わる怖い話は、実話であることをどう読み手に訴えるかが最大の課題となります。実在を証明できないものはどうしても嘘っぽく聞こえがちですが、嘘だという証拠もまたありません。丁寧に描写し、自身が感じた恐怖を誠実に伝えることでリアリティは生じます。筆者(語り手)が実際にその本を目にしている(手にしている)にも拘らず、その本の描写が浅い作品が多く、勿体なく感じました。色は描写しているのですが、手触りや匂い、持った時の重みなど、さらに踏み込んた表現が欲しかったと思います。それによって受ける印象がだいぶ変わってくると思います。
 最恐賞は、人間の心の闇と因果応報を匂わせる「製本屋」。佳作は、実際に存在するとある本と怪談会に纏わる話を扱った「カレーの中辛」、祖母の遺品から出てきた自家製本と思しき本の謎と怪奇「過去からの執着」、空家の押入れにあった本から声が聞こえる奇談「囁く声」の3篇。その他最終選考に「薬井さん」「証拠隠滅」「忌書:大陸から持ち帰った書物」が残りました。
 さて、次回は梅雨の時期ということで「水」に纏わる怖い話。ストレートに水路、水道、井戸、川、雨、斜めに狙って水商売、水玉模様などなど、切り口は色々あるかと思います。皆さまの怖い実話お待ちしております。

【第15回・募集概要】
お題:水に纏わる怖い話

原稿:1,000字以内の、未発表の実話怪談。
締切:2019年6月20日24時
結果発表:2019年6月29日
☆最恐賞1名:Amazonギフト3000円を贈呈。
       ※後日、文庫化のチャンスあり。

  佳作3名:ご希望の弊社恐怖文庫1冊、贈呈。

応募方法:下記「応募フォーム」またはメールにて受け付けます。
フォーム内の項目「メールアドレス」「ペンネーム」「本名」「作品タイトル」 を記入の上、「作品本文(1,000字以内)」にて原稿ご応募ください。


メールの場合は、件名に【怪談最恐戦マンスリーコンテスト6月応募作品】と入力。 本文に、「タイトル」「ペンネーム」「本名」「メールアドレス」を記入の上、原稿を直接貼り付けてご応募ください。

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