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「一幡様」緒方あきら

 友人のYは、あることがきっかけで正月の三社参りをやめた。
 三社参りとは西日本の各地にある風習で、正月の初詣に三つの神社を詣でることだ。特に参拝する神社の順番は定められていない。
 しかし、Yの地元では『一幡様』と呼ばれる、一番最初に訪れなくてはいけないと言われている神社があった。一幡様という呼び名は正式なものではなく、最初に行かねばならない場所としてその地域でつけられた通称だという。
 ここに祀られている神様は誇りが高く気難しくて、よその神を嫌う。そして、最初に自分のところに来なかった者には不幸を呼び寄せるというのだ。
 Yはかつて、好奇心から一幡様を避けてよその神社を二か所参り、最後に一幡様のところに行ったことがあるらしい。
 鳥居をくぐって拝殿に入り、賽銭を投げ入れて鈴を鳴らした。
 すると、聴きなれたカランカランと軽やかな鈴の音は鳴らず、代わりに耳元でけたたましい金属の音が鳴り響いたという。
 Yが慌てて周囲を見回しても異変はなく、また参拝客も音に気付いた様子はない。
 自分の聞き間違いかと思い直したYは、そのまま一礼して神社を後にした。
 おかしな音を聞いたせいか、帰り道はどうにも気分が優れない。
「妙なことはしないに限るな、なんて思っていたんだけどさ」
 もやもやとした気持ちで家路を急いでいたYが、不意に背後から声をかけられた。
「おーい、Y!」
 誰かは思い出せないが、確かに聞き覚えがある声だったらしい。名前を呼ばれたYは足を止め振り返ったが、そこに見知った顔はなかった。
 ――今日はおかしなことばかり起きる。
 そんなことを思って再び歩き出そうとした瞬間、すぐ横の工事現場の足場が崩れ、組まれていた金属のパイプや板がYの眼前に雪崩のように落下した。
「もしも名前を呼ばれていなかったら、間違いなく下敷きになっていただろうな」
 Yが耳に手を当てて、俯きながら言った。
「目の前の足場が崩れる音が、そっくりだったんだ。一幡様のとこの、耳元で響いた奇妙な鈴の音にさ……」
 それっきりYは三社参りをやめ、一幡様に足を踏み入れることもないという。
 あの神社がいったい何を祀っているのかは、未だにわからないのだそうだ。

「オーバーラン」鈴木捧

 私の母校のN高校は海岸沿いという立地にあって、風光明媚なんて言えば聞こえは良いのだが、少し時を遡れば柄の悪さで知られた高校であった。
 聞けば当時はバイクが廊下を走っていたというから驚きである。
 そんな話は同校の二十年以上の大先輩にあたるRさんに聞いたのだが、その流れでこんな話も語ってくれた。

 Rさんが在校していた当時は暴走族の全盛期であり、N高校でもこれに参加する者がいて問題になっていた。
 この地域での「族」の一大イベントと言えば「初日の出暴走」である。
 大晦日の夜更けに海岸沿いの道路を走り、そのまま水平線から昇る初日の出を拝む。
 バイクに詳しいRさんは、加わりこそしないが、参加する者たちと面識も交流もあった。

 その年の元旦の日、Rさんは日の出を拝んだあとの「族」の面々と初詣で合流することになった。
 まだ早朝で、神社の境内は静かだ。
 新年の挨拶を簡単に済ませ、話を聞く。
「今年はポリだらけでさ、マジでヤバかったよ」
「警察沙汰でよく全員無事だったな」
 そう返すと、あらかじめ日の出を拝むポイントを待ち合わせ場所として、バラバラに分かれて走った、と教えてくれた。

 朝のうちにその場はお開きとなったが、帰ってから家に電話があった。
「Bの兄貴から、Bが帰ってないって連絡があってさ、そっちには行ってないよな?」
 先ほど初詣がてら話し込んだYだった。RさんとY、Bは親友という間柄である。
 二人とも、Bとは神社を出るときに別れたのを憶えている。
 結局、事態が進んだのはその日の夕方になってからだった。

 Bは遺体で見つかった。
 バイク事故で、海岸沿いの防砂林の中に転がっていた。
 この近辺の旧道は一車線で狭く、両脇の防砂林の手入れも行き届いていない。ここで走行中、木の枝に体を引っ掛けた、ということのようだ。
 Bの兄に言われ事情聴取と遺体の確認に行ったYいわく、Bは「絞った雑巾のような状態」で見る影もなかったそうだ。

 後から奇妙なことが分かった。調べるとBが亡くなったのは大晦日の深夜…つまり「初日の出暴走」の最中だという。
 その話はYから聞いた。
「いや、初詣で一緒にいただろ」
「俺もあの時のBを思い出そうとするんだけど、もう、雑巾みたいになったあいつしか思い出せないんだ。あの時一緒にいたのも…」
 Rさんも記憶を辿ってみて、愕然とした。
 ただズタズタの、Bさんだったと思しきものと一緒に初詣をしたイメージだけが浮かんだそうだ。

総評コメント

 新年最初のマンスリーコンテストのお題は「正月に纏わる怖い話」。想像以上にたくさんの作品が集まり、嬉しいことに応募数が過去最多となりました。厚く御礼申し上げます。全体的にクオリティも高く、お年玉もかねまして、最恐賞に2作品、佳作に4作品を選ばせていただきました。
 最恐賞は、「初日の出暴走」に纏わる話と「三社参り」に纏わる怖い話。いずれも話の展開に引き込まれ、何とも言えぬ後味を残してくれました。佳作には、不思議な符合から始まる怪「角大師のお札」、鏡餅についた歯型の謎「齧り跡」、おもちゃ売り場に潜む謎の影「元旦のデパートにて」、左前に着ることで美しく柄が出る曰くつきの着物「キ物」の4編を。個性際立つ内容と新鮮さを評価いたしました。
 その他、最終選考に「豆干支」、「黒い着物」、「残香」、「故人の年賀状」の4編が残りました。ちなみに今回もっとも多かったのは、年賀状に纏わる怖い話。中でも「故人から届く年賀状」の話は細部は異なりながらも似通った点が多く、同じような体験をされた方が複数存在すること、実際にあることなのだなという実感が生々しく残りました。
 さて、来月は節分にかけて「鬼」に纏わる怖い話を募集いたします。鬼に纏わる伝承、般若、鬼女、はたまた心に棲む鬼か……様々な形の鬼奇譚、鬼怪談、お待ちしております!

【第11回・募集概要】
お題:鬼に纏わる怖い話

原稿:1,000字以内の、未発表の実話怪談。
締切:2019年2月20日24時
結果発表:2019年2月28日
☆最恐賞1名:Amazonギフト3000円を贈呈。
       後日、文庫化のチャンスあり。

  佳作3名:ご希望の弊社恐怖文庫1冊、贈呈。

応募方法:下記「応募フォーム」またはメールにて受け付けます。
フォーム内の項目「メールアドレス」「ペンネーム」「本名」「作品タイトル」 を記入の上、「作品本文(1,000字以内)」にて原稿ご応募ください。


メールの場合は、件名に【怪談最恐戦マンスリーコンテスト2月応募作品】と入力。 本文に、「タイトル」「ペンネーム」「本名」「メールアドレス」を記入の上、原稿を直接貼り付けてご応募ください。

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