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最恐賞「仕事の夢」緒方あきら

 最近残業が続き、仕事から帰ったら風呂に入り眠るだけの生活を過ごしている。
 そのせいだろうか、私は仕事の夢を見ることが多かった。
 その日も、ベッドに横たわると疲れからかすぐにまどろみがやってくる。私は毛布の心地よい温もりに包まれながら、静かに目を閉じた。

 無声映画のような、音のない世界。
 そのなかで、私はいつもと変わらぬ会社のなかで仕事をしていた。
 一切の音が無くなっていることで、これは夢なのだ、と夢を見ながらにして気がつく。
 社内を見回すと、いつも穏やかな笑みで席についている部長のデスクに、何かが置かれている。目を凝らしてみると、白い花が挿された花瓶であった。

 ――部長に何かあったのだろうか?

 不安な気持ちのまま机を凝視していると、次第に景色がぼやけていった。
 カーテンの隙間から射す朝日で目が覚める。
「縁起でもない夢を見てしまったな」
 ため息をついてベッドを出て、顔を洗い朝食を済ませいつものように会社に向かう。
 夢の内容が内容だけに、電車のなかでもそわそわしてしまいどうにも落ち着かなかった。
 温厚で、笑顔を絶やさないあの部長に何かあったら――。
 そんなことを考えると、通いなれた会社への道のりがどうにも遠く感じられた。

 満員電車を経て会社に出勤すると、いつもは私よりはやく出勤している部長の姿がない。机のうえには荷物も置かれておらず、まだ出社していないようだ。
 はやく部長が来ないかな……。そんなことを考えながら書類を取り出し、仕事の準備を進めて行く。
 少しずつ、始業時刻が迫ってきていた。部長はまだ出社してこない。
 おかしい。彼はいつも、時間に余裕をもって出社してきていたというのに。
 まさかあれは正夢で、部長は……。

 そう思った時、不意に強い力で肩を掴まれた。
 振り返ると、今まで見たこともない冷たい表情をした部長が後ろに立っていた。

「勝手に殺すなよ」

 腹の奥まで響くような低い声。私はめまいを覚え、目を伏せて額に手のひらを当てた。
 顔をあげると、真後ろにいたはずの部長の姿がない。辺りを見回すと、部長はいつも通りの穏やかな笑みで自分のデスクの椅子に腰かけていた。
 あの日から、私は部長が恐ろしくて仕方がない。
 どうしても、あの冷たい表情と深く沈んだ声を思い出してしまうのだ。

総評コメント

 11月のお題は「夢」に纏わる怖い話。睡眠中に見る夢の話から、将来の夢・希望に纏わる話まで、様々な怪奇譚が集まりました。今回はこれまでで最も応募数が多く、また他者の体験の聞き書きではなく、自身の体験を綴った作品が多かったのが特徴です。それだけ「夢」で不思議な体験をされている方が多いということではないでしょうか。
 さて、最恐賞は「仕事の夢」。構成、内容ともに非常にシンプルな作品ですが、恐怖の掴みどころがよく、特に事件が起こるわけではないものの日常に不穏な影が残るラストが実話怪談らしい不気味さを湛えています。佳作、「笑う隣人」は夢に出てきた隣人が引き摺っているモノについての予感。まだ何も起きてはいない、しかし恐怖の前奏はもう不気味に響き始めており、怪談として十分に成り立っていました。「牛の話」は寝ている間に突然痛み出した指が、その直後に見た夢で解決される話。謎は多いですが、因果を予想することも怪談の楽しみのひとつでしょう。「カナヅチ」は海で溺死する夢を見る男の話。ややトリッキーで出来すぎているようにも感じますが、怪異の描写は濃く読み応えがありました。
 実話怪談という性質上、一人称で書かれている場合、それは書き手の体験談ということになります。話の中で他者から名前を呼ばれる場合は、ペンネームをそのまま使うか、Aさん(私の本名/愛称)などとしていればよいのですが、全く違う名前で呼ばれていたり、性別がそもそも違っている場合、創作を疑わざるを得ません。真摯な作品投稿を今後ともよろしくお願い申し上げます。
 来月は「木」に纏わる怪談。ご神木から記念樹、呪いの木、木で作られたもの……沢山の怪異と出合えることを楽しみにしております。

【第9回・募集概要】
お題:木に纏わる怖い話

原稿:1,000字以内の、未発表の実話怪談。
締切:2018年12月20日24時
結果発表:2018年12月29日
☆最恐賞1名:Amazonギフト3000円を贈呈。
       後日、文庫化のチャンスあり。

  佳作3名:ご希望の弊社恐怖文庫1冊、贈呈。

応募方法:下記「応募フォーム」またはメールにて受け付けます。
フォーム内の項目「メールアドレス」「ペンネーム」「本名」「作品タイトル」 を記入の上、「作品本文(1,000字以内)」にて原稿ご応募ください。


メールの場合は、件名に【怪談最恐戦マンスリーコンテスト12月応募作品】と入力。 本文に、「タイトル」「ペンネーム」「本名」「メールアドレス」を記入の上、原稿を直接貼り付けてご応募ください。

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