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最恐賞「きはだ」鳴崎朝寝

 孝典さんが小学校の頃、近所の中央公園でよくエアガンを撃ち合ったそうだ。だが撃つBB弾には限度があるので、その公園で拾ったりもした。

「大体そういう日は、ひとりで暇な日で」

 暇つぶしも兼ねて、その日は中央公園に拾いにいった。
 その公園は人工で、平地のところと、土を積み上げて山にしたところがあり、高い方は木が多く途端に人が減る。
 その日はどんよりと曇っていて、やや土も湿気っていたので孝典さんはまだあまり拾えていなかったが帰ろうとした。
 どこを通っても住宅地に囲まれた公園なので、迷子の不安はない。歩いて行くと、木の中に『地味に目立つ』木が一本あった。

「『地味に目立つ』って矛盾してるようですけど、派手な部分はないのに目を引いたんです」

 木の種類はわからないが、周りと同じような木の中でその一本が目に留まった。近づくと、ガサガサにひび割れた木の表皮が少し捲れている。
 まるで誘うように。
 孝典さんはそれを捲った。べりり、という音がして、下敷き一枚ほどの範囲が剥けた。
 木の皮を剥ぐなどはじめてだったが、その奥にあったのは肌色だった。

 肌色。というよりそれは人間の肌だった。
 青白く、生気はない。だが、触れればすべすべと滑らかで、僅かに温かい。
 木だとわかっているのに、直感で「女の肌だ」と思った。
 きめ細かい。指で押すと適度に弾力がある。幾つか青い痣のようなものがあった。

 孝典さんはそのままそれを指で撫でていたという。撫ではじめてすぐ、なぜか死にたいなあと思った。そのまま撫で続けた。
 母との「五時には帰る」約束を忘れたのはその日がはじめてで、 それ以前に撫ではじめた後の記憶はほとんどない。
 次に覚えているのは泣きながら自分を叱る母の姿で、後で聴くと、雨の中で孝典さんを探して大変だったそうだ。
 だが、雨が降ってきたことも本人は覚えていないという。

 その公園では遊ぶのを禁止された孝典さんは、足が遠のいた。
 正直、エアガンでの撃ち合いも急に子供っぽく思えて興味がなくなっていた。
 なぜかたまに死にたい。部屋でぼうっとすることが増えた。

 そんな中、はっと突然その気持ちが晴れた。
 中央公園で自殺があったと聞いたのはその翌日だった。
 大学に通う男性だったそうだ。

 大人になるまで木自体が怖かったという孝典さんだが、先日バーベキューで木の表面が剥けているものを見て、やはりあれは女の肌でしかないと確信したと言う。

総評コメント

 本年最後のお題は「木」に纏わる怖い話。ご神木、首吊りのあった木、木造建築物、木工製品…様々な角度からの怪談が集まりました。最恐賞「きはだ」は奇妙で不可解、不穏と、怪の本質が詰まった作品。他者の自殺によって死への衝動が消えたことから一つの推論が浮かび上がりますが、結局「それ」は何であったのかという根本が解決することはない。しかし消化不良になることはなく、事実のみがすとんと胸に落ちてくるところに実話怪談の妙がありました。佳作「樵(きこり)と神隠し」は戦後、手配師が持ち掛けてきた東北のとある森の伐採仕事で樵が体験した恐怖譚。時代性が面白く、神隠しの真実を想像すると薄ら寒いものが込み上げます。「枯れ木」は首吊りの木と釣りに纏わる奇譚。釣りの怪談は意外と多いのですが、類話を見ない展開に意表をつかれました。「一本の銀杏」は銀杏に雌雄があることが肝となる作品。樹木に宿る、或いは憑いた何モノかの不気味さ怖ろしさがストレートに伝わってくる怪談でした。その他、観光地としても有名な「血天井」、金柑の木に纏わる怪奇譚「気になる木」、喫茶店を舞台に語られる曰くの木製製品「コースター」が最終候補に残りました。来月は「正月」に纏わる話。初詣関連の寺社の話、着物、おせち、独自の風習…おめでたさの裏で密かに起きている不思議な話、不気味な話、ぜひお寄せ下さい。力作お待ちしております。

【第10回・募集概要】
お題:正月に纏わる怖い話

原稿:1,000字以内の、未発表の実話怪談。
締切:2019年1月20日24時
結果発表:2019年1月29日
☆最恐賞1名:Amazonギフト3000円を贈呈。
       後日、文庫化のチャンスあり。

  佳作3名:ご希望の弊社恐怖文庫1冊、贈呈。

応募方法:下記「応募フォーム」またはメールにて受け付けます。
フォーム内の項目「メールアドレス」「ペンネーム」「本名」「作品タイトル」 を記入の上、「作品本文(1,000字以内)」にて原稿ご応募ください。


メールの場合は、件名に【怪談最恐戦マンスリーコンテスト12月応募作品】と入力。 本文に、「タイトル」「ペンネーム」「本名」「メールアドレス」を記入の上、原稿を直接貼り付けてご応募ください。

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