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最恐賞「ぼんじょのぬくろ」鳴崎朝寝

 友人のE子さんが小学生の頃、家に帰ると汚れた布袋のようなものが転がっていた。綺麗好きの祖母がいたので、そんな物が床に転がっていること自体、珍しかった。
 頭の大きなてるてる坊主のようなものに、ごく雑にマジックで目鼻が描かれている。人形なのだと――それも、玩具というよりは誰かのお土産か何かだろうなと思った。

『アハハハ!!』

 手に取ると突然それから笑い声がして、E子さんは身を竦めた。
 機械を通したような甲高い声だった。ただ、持った感じ、中は何かぶよぶよとしたものが入っているようだ。
 触ると、何か音が出る仕組みなのかもしれない。

 家には誰もいなかった。
 両親は働きに出ているし、祖母は入院している祖父のところへ行っている時間だ。ひとつ上の姉はまだ帰ってきていない。

『ハハハハッ!!』

 持っているだけなのに、また笑う。じわりと持っていた手が濡れる感触があった。
 そのとき、姉が帰ってきた。同じクラスのYちゃんも後ろにいる。

「ただいまー」

 暢気にそう言った姉は、玄関を入ってすぐの廊下に座り込んでいるE子さんを見るなり、唐突に怒鳴り声をあげた。

「ちょっとあんた、何してんの!!」

 それに、ひぃ、というYちゃんの奇妙な悲鳴が重なる。
 二人の反応に驚いたE子さんの手元で人形が笑った。

『ギャッハハハ!!』

 E子さんに駆け寄った姉は、物凄い勢いで彼女の手からそれを叩き落とした。
 同時に声がやみ、家の中がしんと静まる。
 人形から声がした。

「邪魔すんな、ぼんじょのぬくろが」

 低くて抑揚のない、聞き覚えのない男の声だった。
 後半の言葉の意味はわからないが、どこかの方言のように聞こえたという。
 目をやると、先程までの出鱈目に描かれた顔ではなく、布の中から浮き出たような白い顔が姉を睨んでいた。
 姉は気が強い性格だったそうで、それを乱暴に蹴るとE子さんの腕を引いて外に出た。

 ドアが閉まると同時に三人はわんわん泣き、それに気づいた隣家のおばさんが保護してくれた。
 E子さんが「濡れた」と思った手は、泥水のようなもので茶色く汚れていた。姉は最初それを血だと思ったらしく、それでE子さんを怒鳴りつけ、駆け寄ってきたのだと言う。

 家族が帰ってきて、すべて片付けられた後にE子さんたちは中に戻ったが、その人形については家族の誰も心当たりはなかったそうだ。話は半ばタブー的になり、親は未だに中身について教えてくれない。

 一度きりの出来事だという。

総評コメント

第1回のお題は、怪談の王道というべき「人形」。中には実話としてのリアリティに欠けるものもありましたが、実に様々な作品が寄せられました。最恐賞の「ぼんじょのぬくろ」は得体の知れぬ不気味さと、怪異は怪異として答えのないところに実話の面白み、本質があったと思います。佳作「Sちゃんのママ」は一定の因果を予感しながらも、最後までは踏み込めなかった体験者の心境がよく伝わり、そこに怖さが感じられました。「落雁」は寺に伝わる人形の怪が静謐な文章で綴られ、どこか物悲しい読後感が印象に残りました。「うちに来た人形のこと」は軽妙な語り口が面白く、起きた怪事(不幸)をある意味クールに見つめる体験者の視線が良かったと思います。第2回もこれまでにない実話を期待しております。

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怪談最恐戦マンスリーコンテスト

毎月出される「お題」に沿った実話怪談を書いて投稿してください。
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翌月、最恐だった作品を表彰、HPに作品を掲載いたします。
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稲川淳二の怪談冬フェス

【第2回・募集概要】
お題:家に纏わる怖い話

原稿:1,000字以内の、未発表の実話怪談。
締切:2018年5月20日24時
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応募方法:メールにて受け付けます。
件名に【怪談最恐戦マンスリーコンテスト5月応募作品】と入力。 本文に、「タイトル」「ペンネーム」「本名」「メールアドレス」 を記入の上、原稿を直接貼り付けてご応募ください。

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