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「ガーコ」春南 灯

 今井さんが通っていた、田舎の小学校の校庭の片隅には、木造の小屋があり、三羽の鶏が飼育されていた。
 幼いころから動物が大好きだった今井さんは、くちばしが濃い黄色の鶏を、『ガーコ』と名付け、特に可愛いがっていたという。

 夏休みの朝、ラジオ体操の帰りに学校へ寄ると、小屋の前に白い羽根が散乱していた。
 恐る恐る扉を開けると、小屋の隅にガーコがうずくまっていた。
 ホッと胸を撫で下ろしたが、ほかのニワトリの姿が無い。
 慌てて外に飛び出すと、用務員の秋田さんが校庭脇の草刈りをしていた。

「おじちゃん! 大変!」

 大きな声で呼ぶと、すぐに駆け付けてくれた。

「キツネか、イタチか……。」

 散らばった羽根を眺めながら、秋田さんが呟いた。
 その言葉に頷きつつ、狐か鼬の仕業であれば血が落ちているはずだ、と思った。
 以前、自宅で飼っていた鶏が狐にやられた時、真っ赤な血が羽根を染め、襲われた痕跡を残していた。
 足元の羽根は真っ白で、地面にも血の跡はない。周辺を捜したが、発見には至らなかった。

 肩を落として帰宅すると、玄関から喪服に身を包んだ祖父が出てきた。

「どこ行くの?」
「秋田の家。 死んだんだと」
「え? いま? どこの?」
「学校の、用務員しとる」
「さっきまで一緒にいたよ」
「馬鹿いうな。 今朝、死んどるのに」

 呆れたように言い放ち、車に乗り込んでしまった。

 気になって、そのまま学校へ戻ると、ガーコは小屋の外で地面をついばんでいた。
 そっと近づいたが、突然、校庭脇の畦道へ駆け出した。
 後を追ったが、なかなか距離が縮まらない。
 どんどんと隣家に近付き、ガーコは納屋の中へ姿を消した。
 ガーコを追って駆け込むと、血なまぐさい妙な臭いが鼻をついた。
 納屋の奥の天井から紐が垂れ、その先に三つの白い塊がぶら下がっている。
 中を見回したが、ガーコの姿は無い。

 白い塊に近付き、言葉を失った。

 逆さまに吊るされた首のない鶏が、床を赤く染めていた。

 転げるように納屋から飛び出すと、クラクションを鳴らしてゆっくりと出て行く黒い車を、大勢の大人が見送っていた。
 その時、そこが秋田さんの自宅だと知った。


 夏休みが終わり登校すると、小屋は撤去され更地になっていた。
 昇降口の端に、死んだはずの秋田さんが立っていた。

「おじちゃん?」

 少し距離をとって、恐る恐る声をかけた。
 虚ろな表情の口から、声が漏れた。

「コッコッコッコッ……。」

 その声は、機嫌の良い時のガーコの鳴き声と同じだったそうだ。

総評コメント

 入学式の季節ということで、4月のお題は「学校に纏わる怖い話」。母校に伝わる怪奇譚から、在学中の恐怖体験まで様々な怪談が寄せられました。小学校の怖い話は、大人になってから気づいた(判明した)怖さ、今から思うと…というタイプの話が多く、当時感じた単純な恐怖と後年の深く胸に落ちてくるような恐怖と二段階で楽しませていただきました。意外と多かったのが大学の怖い話。こちらは怪異に対して懐疑的になっている年齢での体験とあって、目の前の怪奇事象を否定することから始まります。論理的科学的な説明を何とかつけようとする心の葛藤、それが到底無理だと悟った瞬間の絶望、そのギャップをうまく書けている作品はぞくっとさせるものがありました。いずれにせよ、よくある七不思議のような児童怪談の域を出て、大人が読みうる実話怪談に仕立てられているかどうかが評価のポイントとなりました。体験者が子供の怪談はそこに注意する必要があります。
 最恐賞は、小学校でよく見かける飼育小屋をモチーフにした「ガーコ」。解決されぬ謎と、浮かび上がる憶測と、点が線になりかける絶妙なラインの陰鬱さがよくでていました。佳作の「みどりちゃんといっしょ」も同様の点と線のバランスが上手かった作品です。対する「ゆうきちゃん」「落下する影」は、ほぼ線になっている(因果が繋がって見える)作品で、読後のカタルシス、纏まりにおいて抜きんでいていました。その他、最終候補作に「されこうべ」「蜂柱」「男試し」の3作。
 さて、来月は「本」に纏わる怖い話。これまた創作(小説)風に見えやすいテーマです。実話であることをどう表現するか、皆様の作品を楽しみにしております。

【第14回・募集概要】
お題:本に纏わる怖い話

原稿:1,000字以内の、未発表の実話怪談。
締切:2019年5月20日24時
結果発表:2019年5月29日
☆最恐賞1名:Amazonギフト3000円を贈呈。
       ※後日、文庫化のチャンスあり。

  佳作3名:ご希望の弊社恐怖文庫1冊、贈呈。

応募方法:下記「応募フォーム」またはメールにて受け付けます。
フォーム内の項目「メールアドレス」「ペンネーム」「本名」「作品タイトル」 を記入の上、「作品本文(1,000字以内)」にて原稿ご応募ください。


メールの場合は、件名に【怪談最恐戦マンスリーコンテスト5月応募作品】と入力。 本文に、「タイトル」「ペンネーム」「本名」「メールアドレス」を記入の上、原稿を直接貼り付けてご応募ください。

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