pagetop_img

topimage
twitterでシェア Facebookでシェア 友達に教える

「鬼」鈴木捧

 三十代半ばの女性Nさんは、九歳のときの節分のことが忘れられないそうだ。


「鬼は、そとーーっ。鬼は、そとーーーっ」

 格子柄のセーターに厚紙の面で鬼に扮した父親を、節分豆をぶつけながらじりじりと家の玄関ドアへ追いやっていく。
 当時Nさんはマンションの五階に住んでいた。家の構造は、入り口から入るとすぐ廊下がL字に折れ曲がり、父の書斎やバスルームへの扉を横目にリビングへと続く、という形である。

 Nさんとふたつ下の妹は、そのL字を曲がり、入り口ドアまで父親扮する鬼を追いやった。「いててっ、いててーっ」と言いながら父親が後ろ手にドアを開け、家の外へと出ていった。バタンとドアが閉まると、不思議な達成感があり、妹と顔を見合わせて笑った。

 と、ドアが唐突に開いて、父親が玄関に戻って来た。鬼の面をつけたままだが、相撲取りのような中腰の姿勢を解いて、腕をぶらりと下げ、まっすぐ立っている。しらけたような空気で、無言のままだ。

 ふと父親が面を頭上にずらして外した。

 禿げ頭の、知らないおじさんだった。
 おじさんは悲しげな表情で目を充血させ、わなわなと口元を震わせている。紅潮し始めた顔で、無言のままNさんと妹の二人を見つめていた。
 服装は先ほどまでのお父さんと同じだ。わけが分からずポカンとしていると、おじさんがズボンのポケットに手を入れた。手を引き出すと、そこにはプラモデルを作る時に使うようなニッパーが握られていた。
 何か分からないがこれはまずい状況だと思い、リビングにいる母親を大声で呼んだ。

「お母さん!!お母さーーーんっ!」。

 ただならぬ様子を感じたのか母が少し駆け足気味にやって来ると、Nさんは「あれ!」とおじさんのほうを指差した。

 誰もいない。

 ドアを開けた気配も感じなかった。
 それからのことをNさんはあまり憶えていない。
 ただ、家の廊下や玄関に落ちた節分豆は数日そのままだった気がするという。

 そんなことがあれば事件になりそうなものだし、子供の頃のことだから夢か何かと勘違いしているのではないかと訊くと、Nさんは、今でも妹とはその時の話をすることがあるんだけど、と前置きしてこう言った。

「お父さん、あれ以来、いなくなっちゃったんだよね」

 現在Nさんと妹は別々の町で一人暮らしをしていて、母親は老いた両親と暮らしている。
 今でも年に一度は実家に帰るが、なぜかとても気まずくて母親にはその時のことを訊けないという。

総評コメント

 節分にちなんだ二月のお題は「鬼に纏わる怖い話」。やはり節分に纏わる伝承、民話的な怪奇譚が数多く集まりましたが、最恐賞はその中でも現代の節分の思い出話を綴った怪異譚「鬼」が選ばれました。解決することのない怪の思い出は不気味かつ心許なく、何かを知っているかもしれない母の存在とそこに距離を置いてしまう娘の心境にもリアルさを感じました。佳作は、鬼がすむと言われる学校で、代々校長のしている儀式についての話「校長の仕事」、山寺に安置されている毘沙門天の像に踏みつけられている邪鬼に纏わる奇譚「邪鬼」、仲間うちで登山に行った時の記念写真に写っていた角のようなものの正体「記念写真」の3本。いずれもオリジナリティとリアリティが高く、強い印象を残しました。
 次回3月のお題は「傷」に纏わる怖い話。人体についた傷、物についた傷、心についた傷、様々な痛み走る恐怖をお待ちしております!

【第12回・募集概要】
お題:傷に纏わる怖い話

原稿:1,000字以内の、未発表の実話怪談。
締切:2019年3月20日24時
結果発表:2019年3月29日
☆最恐賞1名:Amazonギフト3000円を贈呈。
       後日、文庫化のチャンスあり。

  佳作3名:ご希望の弊社恐怖文庫1冊、贈呈。

応募方法:下記「応募フォーム」またはメールにて受け付けます。
フォーム内の項目「メールアドレス」「ペンネーム」「本名」「作品タイトル」 を記入の上、「作品本文(1,000字以内)」にて原稿ご応募ください。


メールの場合は、件名に【怪談最恐戦マンスリーコンテスト3月応募作品】と入力。 本文に、「タイトル」「ペンネーム」「本名」「メールアドレス」を記入の上、原稿を直接貼り付けてご応募ください。

関連サイト

spg