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「二人目の彼女」鈴木捧

 Yさんは、今の彼女が初めての彼女なのか、二人目の彼女なのか、分からないという。

「正直、見た目からでしたね」
 黒髪に眼鏡の似合う聡明そうな女性、と説明してくれた。
 出会いはマッチングアプリで、何度か食事をし、相手の方から告白されて、付きあうことになった。
 彼女は意外にもアウトドアが趣味で、ならばとYさんから山登りデートに誘った。

 数時間の険しい登りを経て、樹林帯が途切れた先に地平線のように空が広がってくる。
 稜線だ。
 待ちに待った絶景の予感に、隣の彼女のペースが上がる。
 Yさんは一番乗りを譲るような気持ちで、彼女の後ろ姿を見守った。
 彼女が先行してからほんの二、三分後、Yさんも稜線上に上がった。
 ところが、彼女の姿がない。
 左右は開けた一本道が伸びている。先に進んでいても背中は見えるはずだ。
 稜線の向こう側にはゆるやかな斜面が広がっている。万が一にも、滑落ということはなさそうだ。
 しかし、結局彼女が見つかることはなかったのである。

「事件になると思うじゃないですか?でも、何もなかったんですね」
 家族の連絡先は分からない。
 危険はないと思って、登山届も出さなかった。
 思えば、彼女のことなど、自分はほとんど何も知らないのだと気付いた。
 何か虚しく思えて、ひとり下山したあとは、警察に相談することもしなかった。
 メッセージアプリの会話ログも、一緒に撮った写真も消してしまった。
 一年以上前のことだそうだ。

 話を聞く限り怪談というより事故の話で、「厄介事」かもしれないと思った私に、Yさんが続けた。
「でも、また会いました。再会、なのかは分からないですが」

 職場の同僚が設けた飲み会だったそうだ。
 そのときまで目に入らなかったのも妙なのだが、何度か席を移動していくうち、隣に座ったのが彼女だったというのだ。
 黒髪も眼鏡も変わらない、あのときのままの彼女だったが、はじめまして、と挨拶された。
「もしかしてどこかで会った?」なんてセリフは気恥ずかしくて言えないが、まるで見知った仲のように会話が弾んだ。
 その日の最後には連絡先を交換して、今度は、Yさんから告白した。

「以前の彼女」との写真は携帯からも全部消してしまっていたが、クラウドにバックアップが残っていた。
 そこにはやはり彼女がいた。
「ただ、引っかかることがあって」
 最近、一人で山を登る夢をよく見るが、そこでYさんはずっと誰かを探している。
 いまも、見つからないまま目が覚めるのだそうだ。

総評コメント

 10月のお題は「恋に纏わる怖い話」。恋愛がテーマということで、心霊怪談のほかにもサイコホラー系の実話も集まりました。女心と秋の空を地で行くような女性に振り回される戦慄、はたまた妄執のストーカー男性に付きまとわれる恐怖など、生きている人間こそホラーという作品が数多く見受けられました。一方、心霊系では怖い話ばかりでなく、助けられる話、不思議で優しいお話などバリエーション豊富でありました。最恐賞はその中でも一風変わった話「二人目の彼女」。原因不明で、幽霊的な怪談とは全く異なるのですが、奇妙さの中に潜む言い知れぬ不安感が薄ら寒さを感じさせ、果てのない迷宮へと誘われる読後感が秀逸でした。佳作1作目は、見えない幼馴染との淡い初恋の真相をつづった「童子の間」。2作目は、死んだ彼女と対話している気分になれるチャットアプリに嵌まってしまった男性とその意外な顛末を描く「チャットが呼んだ」。最後は、友人の虚言だと思っていた彼氏の存在が、実はもっと深い闇の中にあることに気づく戦慄譚「愛ちゃんのイマジナリー彼氏」。以上3作が選ばれました。3作とも読みやすい文章で、すぐに内容に引き込まれました。最終候補は、アスカ「結婚相談所」、雪鳴月彦「仲人」、ツカサ「ブログのコメント」、おがぴー「美人画」、音隣宗二「髪フェチ。」、春南灯「青いシーツ」の6作。
 今回、内容は面白いけれど、文章があと一歩という作品も多く、惜しく思いました。とくに一人称で綴るスタイルの場合、語りすぎるきらいがあります。例えば、「〜だと思いませんか?」「〜だったんですって!」など、読者に話し言葉で語りかける文体は、噂話のような軽さが出てしまいます。それよりは一度自分の中に落とし込み淡々と綴るほうが実話怪談には合っているかもしれません(もちろん、例外もあります)。語り手があえて自分の考えは出さず冷静であるほうが、これ怖くない?すごくない?と興奮ぎみに伝えられるよりも、不気味さと現実感が増してきます。自分の体験は限られるので、人から聞いた話を書く場合が多いかと思われますが、最初はやや典型的ではありますが、「〜という」「〜そうだ」という実話怪談の基本的な言い回しを使ってみることをおすすめします。初心者の方は、「です・ます」調でなく「だ、である」の常体でまずは書いてみてください。画一的な文章スタイルをあえて恐れず、あくまで内容で勝負してみる。やがてそこから自分独自の表現・文体が生み出されていくことと思います。
 さて、来月は「服に纏わる怖い話」。ちょっと難しいお題かもしれませんが、和服、洋服、制服、コスプレ、さまざな怪異を期待しております!

【第20回・募集概要】
お題:服に纏わる怖い話

原稿:1,000字以内の、未発表の実話怪談。
締切:2019年11月20日24時
結果発表:2019年11月29日
☆最恐賞1名:Amazonギフト3000円を贈呈。
       ※後日、文庫化のチャンスあり。

  佳作3名:ご希望の弊社恐怖文庫1冊、贈呈。

応募方法:下記「応募フォーム」またはメールにて受け付けます。
フォーム内の項目「メールアドレス」「ペンネーム」「本名」「作品タイトル」 を記入の上、「作品本文(1,000字以内)」にて原稿ご応募ください。


メールの場合は、件名に【怪談最恐戦マンスリーコンテスト10月応募作品】と入力。 本文に、「タイトル」「ペンネーム」「本名」「メールアドレス」を記入の上、原稿を直接貼り付けてご応募ください。

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