• サイト移動のお知らせ
  • 平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
     

    この度、竹書房「怪読戦」サイトは、サイト内のコンテンツ改訂に伴い、下記URLと移動となりました。

     
    ブックマークに登録されているお客様は、ご変更いただきます様よろしくお願いいたします。
    尚、本URLは2024年2月29日を持ちまして閉鎖となります。
     

    今後とも一層のお引き立てのほどよろしくお願い申し上げます。
     

    株式会社竹書房

  • 「怪読戦2023」優勝は松永瑞香!
  • 2023年11月26日(日)信濃町・東医健保会館大ホールにて「竹書房怪談文庫/まつり」が行われ、「怪読戦2023」は松永瑞香さんが優勝しました!おめでとうございます

  • 決勝戦審査結果
  • ※各審査員20点(技術:5点、個性:5点、表現:10点)の持ち点。
    ※出場者、語り順。

  • 【竹書房怪談文庫・怪読戦】決勝進出者発表!
  • 11月26日(日)の決勝戦に進出する方は下記の通りです。
    おめでとうございます!

    あさみん。
    八重光樹
    和泉茉那
    田中カヨ
    御前田次郎
    松本エムザ
    ちぇんちぇん
    渡辺吾郎
    松永瑞香
    住倉カオス
    武田鳴
    工藤結衣


    ※順不同、敬称略

  • 「怪読戦2023」開催決定!
  • 昨年スタートし大好評を博した、怪談朗読に特化したコンテスト「怪読戦」。
    さまざまな語り手が群雄割拠する怪談というジャンルにおいて、シーンをさらに盛り上げてくれる新たな才能を、今年も発掘いたします。

    優勝者には賞金10万円!! そしてYouTube「竹書房ホラーちゃんねる」における朗読番組「怪読録」への出演をはじめ、オーディブルなどお仕事として活躍できる場をご用意いたします。

    応募方法、大会スケジュールなどの詳細や朗読原作は下記をご覧ください。たくさんのご応募お待ちしております。

    みんなも怪読師になろう!!

  • 竹書房怪談文庫・怪読戦2023/大会日程
  • 応募期間

    2023年9月1日(金)18:00〜9月30日(土)23:59

    決勝進出者発表

    10月13日(金)

    決勝戦

    11月26日(日)


    ■開場16:00 開演17:00

    ■会場:東医健保会館大ホール(東京都新宿区南元町4-41)

    ■前売券:4,500円 当日券:6,000円

    ▼詳細・ご予約はコチラをタップ▼


    ※各日程は予告なく変更になる場合があります。
    ※決勝戦は東京都内で開催の予定です。詳細は改めて発表します。

  • 竹書房怪談文庫・怪読戦/応募規約(2023年9月5日版)
  • 【応募資格】

    ・プロ・アマを問いません。
    ※但し事務所に所属している方は必ず事務所の許可を得てください。

    【応募注意事項】

    1)朗読原作10本と原作使用できる書籍9作を指定しました。その中からお好きな原作をお選びいただき、朗読映像を5分以内で収録してください。その動画をLINEで応募方法に従ってご応募ください。(※詳しくは下記【応募方法】をご覧ください)
    2)応募数は一人最大3作品まで可能です。ただし一つの原作に対しては複数の応募はできません。
    3)応募動画の編集・加工については特に制限はございませんが、優勝者には活躍できる場をご用意しますので、必ず顔がはっきり見える、分かる動画でご応募ください(仮面や顔が隠れる被り物、またアバターのご使用は不可とします)。また朗読がよく聞き取れるようにお願いいたします。
    4)なお11月26日に予定されている決勝戦ではご自身の顔を出し、マイクを使用して生の声で朗読するコンテストとなります。
    5)応募動画は弊社YouTube「竹書房ホラーちゃんねる」での公開やSNSでの公開、およびこの大会の宣伝など、そのほかの目的で使用する場合がございます。あらかじご了承ください。
    6)決勝戦は都内で行う予定です。参加するための交通費や宿泊費は自己負担となりますので、ご了承願います。
    7)応募期間中または決勝戦通過者発表後でも、社会的な常識に照らし合せて、SNSでの発言やそのほかの言動等について問題があると主催者が判断した場合は失格とする場合もございます。

    ▼怪談社・糸柳寿昭さんが応募動画のコツを動画で解説▼

    【応募方法】

    ・応募は、今回新しく開設した「竹書房怪談文庫公式LINE」から受け付けます。必要事項と動画をLINEでお送りください。

    ⚠️※昨年の応募受付口だった「怪談最恐戦公式LINE」とは別ですのでご注意ください⚠️

    (LINEでの応募方法)
    1)【竹書房怪談文庫】を友達登録。
    2)【竹書房怪談文庫】のトークに、必要事項を記入して投稿
    ※1対1のトークへの投稿につき、第三者には開示されません。
    3)【竹書房怪談文庫】のトークに、ご自身の朗読動画(制限時間5分)を投稿。
    ※LINEでの投稿は強制的に5分で切られてしまいますので、ご注意ください。

    【応募必要事項】

    LINEでの応募の際に、以下の事項もトークにてお送りください。
    ※複数作品(3作品まで)を応募する場合は、2作品目以降は朗読作品名だけで結構です。
    ※一番最初の応募時には、下記すべてにご記入ください。

    ・朗読作品名:
    ・応募名(公表しても良い名前):
    ・応募名(フリガナ):

    ・氏名(本名):
    ・氏名(フリガナ):
    ・年齢:
    ・性別:
    ・メールアドレス:
    ・住所:
    ・電話番号:
    ・職業:
    ・使用しているSNSとアカウント名:

    ※上記、応募必要事項はすべてご記入ください。記入漏れや虚偽記載が発覚した際は審査対象外、応募無効とする場合がございますので、あらかじめご了承ください。

    ※プロダクションに所属している方は下記についてもご記入ください。
    ※応募前に必ずプロダクションの許可をお取りください。
    ・ご所属のプロダクション名:
    ・ご担当者様:
    ・プロダクションの連絡先:

    【応募締切】

    2023年9月30日23:59

    【決勝進出者発表】

    2023年10月13日(予定)

  • 朗読原作
  • 以下の10作品および9冊の文庫本より、お好きな作品を朗読してご応募ください。
    3作品まで応募できますが、1つの動画に2〜3作品をまとめるのではなく、1作品1動画でご応募ください。
    その他、応募に関しては応募規約を必ずご確認ください。

    10作品のうち、1~8は実話系怪談や幻想系怪談です。8・9・10に関しては、「 」( )内の言葉を応募者ご自身で自由に埋めて朗読してください。「 」( )は、便宜上一行になっていますが、何行に増やしていただいても結構です。ただし、制限時間である5分以内に必ずおまとめください。

    ▼ボタンをタップで各話本文へ

    9冊の文庫本に関しては、本のなかのどのお話を選んでいただいても結構です。ただし、こちらも5分以内に読み切ること。なお、著作権管理上の観点からネットでの全文公開は控えさせていただいておりますので、原作の文庫をご自身で入手のうえお読みください。

    ▼ボタンをタップで各文庫へ

    1「まっすぐに」

     マニアや職業、それらは例外として。この国において、夏の風物詩とされている怪談は、季節を問わず、という考えにはまだまだ追いついておらず、イロモノ扱いされている節も強うございます。バラエティ番組の使い捨てのようなネタとして取り上げられていることからも、軽きものとして見られているのは事実認識できるワケでございますが、亡くなったひとに逢った、不思議な現象が起こったという体験談自体は春夏秋冬問わず耳にするのもまた事実。対して時期に縛られる観念があること自体、ジャンルが浸透しているとはいいがたく、かといって夏以外には聞くことができないのかと聞かれれば、現在はそうでもなく。検索すれば動画などが山ほど浮かびあがり不自由なきことをかんがみるなら、逆にひとむかし前、夏ではない季節が舞台となった怪談が新鮮に聞こえたのも、もはや懐かしい限りとなっておりまして。

     矛盾した視点でございますが、夏だけ盛り立てるもの風情。そして、季節外れもまた一興ということでございましょうか。生暖かい風やスズムシの音、そういった季語とは無縁の春秋冬(しゅんしゅうとう)が舞台だからこそ、魅かれるものもあるのです。

     ある心霊スポットにて。肝試しを楽しむ若者たちのなかに霊感があると主張する女性がいた。時期は真冬、場所は廃屋、あたりは雪景色。

     寒さが際立ち、冷風が吹き、躰中の毛が逆立つ気温にもかかわらず、その女性は足を止め、あちらをさし、こちらをさしては、あそこに霊がいる、あそこにも霊がいるといった発言を繰り返す。このときすでに廃墟での肝試しは終わっており、停めていた車までもどる道中ゆえに、いまさら霊が視えるなどといっても不毛に等しい。女性が何が言っても大げさに怖がるふりで楽しみ、皆、笑みのまま車へと進んでいく。笑っている仲間たちに不快を覚えたのか、信用されていないことに怒りを感じたのか、女性は、あそこにいるじゃない、どうしてみんなアレが視えないのと大声をだした。あまりにもしっかりと指をさすその場所に全員が目をむける。そこには――なにもない。誰もいない。ただ、雪が積もった地面、雪原がひろがっているだけである。――が。微か、ほんの微かだが、その雪原、地面の雪に、動きがあった。ふわりと積もった絹のような真っ白い雪、そこに足跡がある。否、足跡があるのではない、今まさに足跡ができていくのだ。こちらにむかってザクザクザク。視えない何者かが彼らにむかって進んできている。まっすぐ、まっすぐ、まっすぐに。

    2「迷うこと」

     怪談と申しますと、たいていの方が死者――すでに亡くなっている人間、つまりは幽霊と会った話を思い浮かべるようでございまして――。好みや定義は人それぞれ、自由に決めることに、何も問題はなく、楽しみを何処に見いだすのか、選ぶことすら愉悦のひとつ。これを聴いている皆さまは世間でいう娯楽、喜びを怪異の談に見つけ、自らそれを選んだ方々であり、このようなことを申し上げるのは機微の無きことと我ながら存じた上、私的な基準を並べさせて頂くならば、亡者の話、不可思議な話、そして人の成す行動、奇妙奇天烈、狂気の沙汰とされる話。それすら「怪談」のひと枠におさまっている次第でありまして――。

     皆さまの舌にあうか否かも含めまして、私が至上と判断した怪異談を、この映像という皿におかせて頂きますが、なにぶん、実話という縛りが故の不納得、起承転結の欠如もありまして、そちらにかんしては寛大を頂きたく、心で生まれた厭なものを味わい味わい――そして残ったものを懐にいれてもらえれば――今宵よりあなたは怪談と共に生きることとなるはずでございます。

     さて――万葉集に、風の音(と)の、遠き我妹(わぎも)が、着せし衣(きぬ)、手本(たもと)のくだり、まよひ来にけり、という作者不明の歌があります。「風の音(と)」は「風のおと」と書きまして、これを枕ことばとして「遠い場所に」とかけている美しい言葉で、訳としましては「遠くにいる妻が着せてくれた着物の、袖の部分が傷んできた」という意味でございまして、離れている連れあいを想う情緒深き内容でございますが、この「着せし衣(きぬ)、手本(たもと)のくだり、まよひ来にけり」の「まよい」の意味は縫い糸が乱れることをさしております。ひとつの言葉にはいくつも意味がありますが、この「迷う」という言葉、古典の怪談では「死者が成仏できずにいる」という意があり、刀を抜いた侍が亡者に切りかかる際「迷ったか」と叫ぶのはこの意味あいがこめられております。印象としまして、あの世へ旅立たず迷っているさまは、哀愁を感じてしまうかもしれませんが、もしも、あなたならどうなさるでしょうか。何時間と迷う。何日も迷う。迷う。ただ、迷う。ひと月、数年、数十年迷ったのなら、その迷っている場所に誰かを呼びこみ、そばにおいておきたい、ひとりでは寂しいから、その場にいる者たちだけでは辛いからと、さらに誰かを迷わせたい。迷ったことによって、さらに迷う者を増やそうとすることは――至極、当然の考えではないでしょうか。だからです。だからなのでございます。お前を連れてくのは。


    3「巡らない」

     情けは人のためならず。
     これは、気まぐれで人の世話をすることは、その人のためにならないという意味――と、間違った認識をしている方々が多くいらっしゃるということですが、そのような意味ではなく、実際は「誰かに慈悲や優しさをかけるということは、巡り巡って自分に帰ってくること」という、大変に良き言葉でございます。が、ところが、しかし、それでも。この世の乱れのせいか、心無き者たちは、その「情け」ですら悪意を隠す材料に使い、自らの魂を地に落とす行動をとる。先人が示してくれた言葉「情けは人のためならず」は現在、まさに、先ほど申した通りの、間違った認識が正しさを帯び、哀しい意味あいの言葉になろうとしているのですが、ああ、あな悲しきかな、我々は、心のどこかで常にそれを分かっている節があるということで、もしやあざむかれるやも知れぬ、もしや酷い目にあうかもしれぬと理解がありつつ、己に湧いた余計な世話である老婆心を抑えることができないでいるということは、結局のところプライドが高い顕示欲にも似たもので、自分にしかできない納得を求めることがそこに絡み、優しさや献身といった正当性の高いものであればあるほど止めることができず、過去に人に感謝され、それに対して良いことをしたと思っていれば思っているほど、また同じことを繰り返す習性があり、因果の環は続くのでございます。
     実際に人間というものは、それぐらいの稚拙な存在にすぎず、ひとの痛みを解すことすら幻想のひとつであり、共感を持てたという錯覚ですら脳内で発生する電気信号であるならば、思い出はただの情報であり、魂や霊魂は消去されずに残留したデータと考えることもできて、物悲しいが、ないものをあると感じることが信仰に繋がるとするならば、それはそれで生きる糧となるので、良しとするしかないが――。
     目に見えないものを否定して考えるほど浅ましくはなれず。
     口から嘘を吐いて安息を感じるほど卑しくはなれず。
     耳にするものを疑わないほど純真にもなれない。
     比喩でも具体的にでも、暗闇の中から彼らは見つめてくる。微動だにせず、ただ見つめているのでございます。人であれ、獣であれ、人外であれ同じく、自らの動きを見せずに眼(まなこ)を開いて観察する存在は、考えを巡らせているという共通点があるということを、我々は忘れてはならない。夜鳥が鳴こうが犬の遠吠えが聞こえようが、目を逸らさないということ、それらの指す意味は、こちらの隙間を狙っているということでしかなく、それを理解する瞬間、ときはすでに遅く、牙はノド深く刺さっているのです。まさに、あなたの隙が、思いやりのなさが、巡り巡って返ってきたのです。ほら、もうすぐ楽になりますよ。


    4「素晴らしい世界」

     なぜかと訊かれるならば。私たちは皆、平等だから。

     感謝の中で生を受け、圧力のかかることのない育みがあったからだ。清らかな空気、健やかな風、汚れのない大地での生活を営んできた。自然の恩恵をあますところなく含んだ食物で栄養を摂取し、眩い太陽が私たちの心を癒し、透きとおる海では魚たちが踊って私たちの存在を祝福してくれたからだ。ああ、恍惚とはこのようなことだったのだ。意図せずともすべてが素晴らしい方向に進んでいくのを感じる。春を眺め、夏をのりきり、秋は紅い葉を楽しみ、冬は家での温もり、不平不満など何ひとつ存在せず、誰ひとり憎しみを抱かない、思わず歌いたくなる。私には緑の木々が見える、赤いバラの花々も、私とあなたのために咲いている。そしてひとり思う――なんて素晴らしい世界だと。

     私には青い空が見える、白い雲が輝いた祝いの朝、暗くとも神聖な夜。やはり、ひとり思う、なんて素晴らしい世界だと。

     空にある可愛らしい虹の色彩、同じものが行きかう人々の顔にも浮かび、私には友人たちが握手しているのが見える。「ごきげんいかが?」と言っている。その言葉の本当の意味は「愛しています」だ。

     ほら、赤子の泣き声が聞こえる、彼らの成長を見守ろう。彼らは私たちよりも多くを学ぶだろう。そして再三、ひとり思う、なんて素晴らしい世界だと。そう、ひとり思う、なんて素晴らしい世界――。

     そこで私は目を覚ました。

     どうやら自分でも気がつかぬ間に夢想していたらしい。あたりは相変わらずの暗闇で他には何もない。生きているときは空腹や寒さで苦しんでいたが、今はそれもなく、思いだせることも少なくなり、ぼんやりとする時間ばかり。だが、怨みやツラミだけは忘れたこともない。やっと「生きる」という呪いから解放されたと思ったが、どうも終わりはないようで、もうどれくらいここにいるのか、おそらくは何十年もいるにもかかわらず、この暗闇は私に何も与える気がないようだ。時々だが、出口が見える。そこに入ってもまた同じ暗闇が続いているだけなので、結果的に出口ではなかったのだが――その出口のむこうでは時々、誰かの気配を感じるように思えてならない。初めはもちろん、その存在を喜んだのは否めず、もしや、その存在がここから私を救い出してくれるかもしれないと、淡い期待を持ったのも確かだ。だが、何もしてくれない。しかし、それは確かにいる。

     いつの頃からか、私はその存在、憎しみ、抱く、だから、私がされたことを、いつか必ず、同じことをしてあげたい、と思って、考えると、どうしてもどうしても、笑ってしまう、あなたのことを、ここ、押し入れのなか、暗闇から、私、見ている、あなた、ここに必ず連れていく、素晴らしい世界に。


    5「おんなである」

     その夜、住宅街を歩いていた。

     すると、あちらの方向、電信柱の影におんなの姿があった。

     おんなは、このような、体勢で、上半身が見えている。しかし下半身は柱に隠れており見えない。正確には、街灯がないので暗く、見えているほうの上半身もハッキリとは確認できない。妙なのは、おんなが――うかがっているように、じっとこちらを、私を見ているように思えたこと。

     背中に冷たいものが流れる。おんなが気味悪く思えた。

     待ちあわせで誰かを待っているようにも見えない。ひと気のないその道を歩いているのは、私だけだ。もしも、おんなが、変質的な性格の人間なら、なにか危害を加えてくるかもしれない。素手ならばまだしも、例えば包丁のような刃物の類を持っていたとするならば危ない。

     近頃の報道番組をみても、そういった事件はあとを絶たない。

     不安を感じ、電信柱のほうへ行くのをやめ、角をまがり、別の道を選んだ。コンビニに入り、雑誌の立ち読みをして、すこし時間をつぶし、買う必要のないものをいくつか買って店をでた。

     きた道とは別の道で、住んでいるマンションにむかって歩いていると、ぎょっとして足を止めた。道の先――住宅街の路地、ちょうど十字路になっている所。さっきのおんなの姿があった。やはり電信柱から上半身だけ、このようにして、こちらを向いている。

     先ほどとまったく同じである。違うのは、今度は街灯に照らされ、ハッキリと姿が見えることだ。髪の長いおんなである。口が半開きに開いているおんなである。細い、糸のように目の細いおんなである。

     それを数秒みただけで、やはり寒気が走った。

     きびすを返してもどり、また別の道を通っていく。おんなが自分に目をつけており、あとをついてきているような気がしたので、怖くなり早足でマンションへ急いだ。何度も、何度も振りかえり、追いかけられていないか確かめる。うしろには誰もいなかった。

     マンションに到着して玄関を開ける。ひとり暮らしだが、なんとなく「ただいま」と声をだした。すると奥の部屋からあのおんなが、ぬっと上半身をだして「おかえり」。


    6「信じている」

     私が赴任した中学校には怪談的なウワサがあって、それは「夜になると、廊下にランドセルの女の子が現れる」というもので、聞いてすぐそんなバカなと思った理由は、中学校なのにランドセルの女の子というのは妙だし、夜の学校に生徒がいるハズもなく、いったい誰がその女の子を目撃できるというのかという疑問があったためだが、考えてみれば中学生といえど去年はまだ小学生、やっぱり子どもなんだなと可愛く思うのも当然の感情、私同様、他の教師たちもそんなウワサを気にしておらず、過ごしやすい十一月、放課後に職員室で作業をしていると、いい時間になったので、そろそろ帰ろうかというとき、教室の担任机に忘れ物をしていることに気づき、淡い蛍光灯の灯りの廊下を進み、階段を上がっていき、施錠を解き、教室の戸を開けたまま、なかに入り、窓際にある自分の机の、一番下にある引き出し、そのなかにある忘れ物をとろうと、しゃがみこみ、取っ手に手を伸ばした途端、入ってきた教室の戸がピシャリと閉まる音が聞こえ、驚いて顔をあげると、ランドセルの少女が立っており、こちらにむかってゲラゲラ笑いながら走ってきたので、驚き尻もちをついたが、すぐに立ちあがり、悲鳴をあげ、教室のうしろの戸のほうへと走り、開けようとしたが、ランドセルの少女が笑いながらむかってくるので、慌てふためき、かかった鍵のことまで気がまわらず、戸が開かないことに再び悲鳴をあげ、振りかえると近づく少女、その顔は蒼白だが、目と口を異様に大きく開け、まだ笑っているので、机をひっくり返しながら、入ってきた戸のほうへむかって走り、なんとか廊下にでて、全力で走るも、うしろから少女が追いかけてきていたので「誰か助けてくれッ」と叫び、角を曲がると、教頭が立っていて、腰を抜かしそうになりつつも「助けてください」「どうしたんですか、先生」「女の子がいるんです、ランドセルの!」と慌てて伝えたが、すぐうしろにいたはずの少女は角を曲がってこず、ふたりでおそるおそる角から顔をだして廊下を確かめたが誰もおらず、教頭に必死で説明するも、疲れのせいだと諭され「あとは私が確認しておくので先に帰ってください」と職員専用の下駄箱まで見送ってくれて、校門にむかって暗い校庭をびくびく横切り帰ったが、翌日から教頭が出勤せずに数カ月後退職となり、病気のひとつもしたことがないのにとみんな不思議がったが、私はあの少女が関係していると思っているので、幽霊か妖怪か、なんなのかわからないが、そういうものは存在していると私は信じているのである。


    7「嗚呼」

     私は、あなたのことをずっと見ていました。あなたが私のことを知る前からです。白い肌、闇を照らす瞳、彫刻のような形の唇も、いつでも思いだすことができます。

     私は、あなたのために準備をしてきました。肉体や精神だけでなく、経済面でもあなたが困ったときのために備えたのです。いつなんどき、なにが起こっても、あなたの力になれるように考え、努力し、万全にしました。

     私は、あなたのことを想っていました。想えば想うほど身体がうずき、息が乱れてしまい、夜に布団のなかで思いだしてしまうと嗚呼、嗚呼と声をだし乱れてしまうのです。

     私は、あなたのために心構えをしてきました。どんな状況であっても、どんな条件であっても、あなたのそばにいられるなら何もかもを捨てる覚悟を持っています。たとえたくさんの恋人のひとりであろうと、たとえ大事にされなくとも、私はあなたの要求にはすべて応えることができます。嗚呼。ただ、あなたの横で眠りたい。

     私は、あなたのために存在します。髪の毛から足の指の先まで。あなたが悦ぶならば、あなたが求めるならば、私はすぐに実行に移します。私の細胞のひとつひとつがあなたのために存在するのです。嗚呼、嗚呼。

     私は、あなたのためならなんでもやります。どんなに汚いことも汚いと思いません。

     そしてあの夜。私はあなたを見つけました。いつも通りの帰り道だったのに、車にひき逃げされて、道路に横たわるあなたを見つけたのです。家に連れて帰ってからも、あなたは目覚めませんでした。冷たくなってからも私はあなたを見つめ、想い、抱きしめました。こんなこともあろうかと準備しておいたドライアイスを使いましたが、どんどん腐っていくあなた。心構えができていたので保存用に処理するのも簡単でした。あなたのために存在し、あなたのためならなんでもできる私だからできたのです。でも改めて見ると、嗚呼。ただの骨なんですね、あなた。


    8「ツバキノクビ」

     ひと首。

     日本書記における「つ」という文字は、強い意味を持つひと文字でございまして――。

     言葉を話すとき、口からでる唾液「唾」もそのひとつで、しずくが固まる、美しい丸い玉、魂をさすものとするため、ことばの玉、すなわち「言霊」の意を持つものであり、それらを口から吐くだけで、現れる神さえいたということですので、畏敬の念を添えるのは至極当然というもの。

     明治から昭和を生きた折口信夫は詩人、歌人、国語学者だけではなく、民俗学者としての権威もあり、折口信夫全集第二巻のなかでこのようなくだりがございます。

    「口から吐く唾と花の椿とは関係があって人の唾も占いの意味を含んでいたのは事実だ。

    唾の語幹であり、唾は「つばき」である。椿がうらを示すもの故、唾にも占いの意味があるのだろうと考えたのである。どの時代に結合したかわからぬが、時代は古いもので『つ』に占いの意味が含まれている。だから、椿という字ができてくる。春に使われる木だから、椿の当て字ができた」

     ふた首。

     桜は他国からも美の賞賛として名をあげておりますが、もっともこの国に根付くべき花を浮かべますと、やはり椿こそが相応しいという考えもございまして。この春の木は昔より、ひとの様を眺めていたものでございますから、無念も数多く抱えているというのが理屈でございます。

     み首。

     占いを吐く「つ・は・き」が連濁した名前を冠するこの木は、狂う狂うと廻り落ちるその首が、怨みのひとつも知らぬはずがなく、椿にかんした語られる怪談奇談はもちろん多く、ひと首、ふた首、み首などの説明では、とてもとても追いつかぬため、人間の恨み、悲しみ、妬み、あなたさまの好きな恐怖を選び、ご堪能してくだされば、口述した甲斐もあったということ。泣き声にも似た、ぽとりと落ちる花たちの笑う声。想像に届きますでしょうか。

     枝から花が首ごと落ちるときに放たれる――その笑い声は、このようなものでした。

    (「            」)


    9「会話が聞こえた」

     ある夕方の出来事である。

     スーパーで買いものを終えた私は、家にむかって歩いていた。

     信号待ちをしていると、こんな会話が聞こえてきた。

    「  」

    「  」

    「  」

    「  」

     私は思わず「   」とつぶやいた。

     すると耳元で声がした。

    「   」

     立ちどまってまわりを見渡したが誰もいない。

    (        )

    10「忠告」

     さあ、今日のお話です。皆さんは(  )というものを知っていますか?

    ( )は( )。

    (            )。

     簡単にいうと(  )だと思ってもらっても結構です。

     さて、この(  )。実はちょっと怖いことがあります。

     実は( )で( )するひとがいるのです。

     もちろん( )は( )なわけですから(  )した場合、その結果(   )。

     (  )すると大丈夫なのですが(  )ですよね。

    (                          )。

     皆さんもお気をつけください。もし(     )しますよ。

    ※※※

    続きまして、指定の文庫本9冊です。

    本のなかのどのお話を選んでいただいても結構です。ただし、著作権管理上の観点からネットでの全文公開は控えておりますので、原作をご自身で入手のうえご使用ください。(表紙画像をタップで、Amazonの商品ページへ移動できます)

    『紀州怪談』田辺青蛙

    熊野、高野…神仏、妖かしが巣食う和歌山県のご当地怪談!

    幼い頃、和歌山の古寺に住んでいた大叔父に連れられて見た人魚の木乃伊——。ホラー作家・田辺青蛙が、原体験から手繰り寄せた紀州・和歌山の怪異奇譚の数々! 印南町にきた行商人から買った肉を食べ…「旅商人の肉」、ある日突然、庭先に転がる何百もの蜜柑「みかんの神」、瓶詰になった怪しい代物「妖怪を売る男」、分厚いアルバムが落ちていて中身を見ると…「虫喰岩」、登山道にあるたくさんの能面、そして現れた女が…「面の森」、そして熊野街道を辿り紀南へ修行に来ていた陰陽師・安倍晴明の伝説とは! 海と山に囲まれ様々な妖怪や不思議が息づく和歌山、魅惑の裏ガイド!

    『恐怖箱 怪道を往く』高野 真

    転勤族の著者が行く先々で採取し本気で震えた実話怪奇集!

    関西出身ながら転勤族として東北地方ほか各地へ異動を繰り返してきた著者が、行く先々で出会った人々から聞いた恐怖体験談、怪の記憶を纏めた一冊。
    実家の片付け中、忽然と現れては消える覚えのない名前の書かれた紙袋。中を確認しようとするたびに邪魔が入り…「まさとし」、両親に虐待を受けた娘が選んだ復讐の方法は呪詛。呪いは成就したが家に奇妙なモノが…「呪詛と復讐」、比島戦線で窮地を何度も救ってくれた戦友。特殊な能力があるとしか思えない彼の正体は…「高田正太郎君の話」、不倫相手の女性の首に突如浮かび上がった赤い線。線はどんどん濃くなり…「あかし」他、全58話収録!


    『川崎怪談』黒 史郎

    戦慄!最恐都市・川崎の実話因縁怪談集

    神奈川県では横浜市の次に人口が多い川崎市は、工業地帯として発達した一方、怪異や人の業が渦巻くダークな都市でもある。各地の土地の因縁話の蒐集をライフワークとする著者が川崎の膨大な資料・文献から厳選した奇妙な話の行方を綴ったマニアックな実話ご当地怪談集。

    大手自動車工場に勤める男のもとに奇妙な電話がかかってくる「水底から」(川崎区)、橋脚に現れた少女の姿にまつわる土地の怪異「橋脚の少女」(高津区)など。また、川崎市出身の平山夢明がとっておきの川崎怪談を寄稿。自殺が多発する団地の近くにある食堂では…「とんかつ豚次」(幸区)ほか収録。


    『奇談百物語 蠢記』我妻俊樹

    日常の歪みに貼りつく99話の恐怖
    掌編の名手が紡ぎ出す奇妙でうすら怖い白昼夢・怒涛の百物語!

    日常の奇妙なねじれ、悪夢のような居心地の悪さ、纏わりつくような恐怖を巧みに描く我妻俊樹が満を持して挑んだ百物語集。子供の頃のある夏休みに起きた出来事「神隠しの話」(第3話)、都内で地元の幼馴染を見かけた気がしたのだが…「水槽」(第26話)、幼い頃、母親が通っていた会合。母親が事故に遭ったと連絡があり…「くろばとの会」(第87話)、その家には女が出るのだけれど…「無視できない」(第94話)、地元にある小さな坂で出会う不思議「くちなし坂」(第97話)など怒涛の怪異たち。読み終わればあなたの周りで「奇妙」が手をこまねいているかもしれない。


    『一〇八怪談 濡女』川奈まり子

    日本全国から採話した高密度・実話怪談シリーズ第4弾

    怪談作家・川奈まり子が恐るべき数の取材で得た、短くも濃厚濃密な怪異を綴る人気シリーズ第四弾。砂浜で全身濡れそぼった女と現れた男友達、その後…「ぬれをなご」、高熱にうなされる娘が蠢いている。掛け布団を捲ると…「白蛇を解く」、幼い息子が突然、しっかりした口調で話し始めた内容は…「神のうち」、職場を辞めた天涯孤独な男性が現れたのは…「最期の居場所」、幼い頃の初恋。その切なくも奇妙な末路「夢枕の恋」、新居で起こる怪異の数々「ドアに刺さっていた」、前作『実話奇譚 邪眼』収録の「鯉」の驚愕の後日談「鯉 魚腹に葬らる」など怒涛の108編+1話!


    『怪談社 THE BEST 鬼の章』伊計 翼

    怖すぎて重版!!
    傑作に大幅加筆を加え、「廃校の怪談」ほか新作30話書き下ろし

    心霊TV番組「怪談のシーハナ聞かせてよ。」「怪談好きが集まるBAR REQUIEM」のレギュラーや怪談ライブ、YouTubeなどでも活躍中の怪談師・糸柳寿昭と上間月貴。彼らが所属する怪談社の人気既刊本〈十干〉シリーズより、自ら厳選した怪談に大幅加筆したベスト版最終巻。
    中学生の友達の額をふざけて指で突いたらその指がズボリと…「指先の脳」、買い物から買ってきたら家の敷地から見知らぬ少女が飛び出してきて…「便利屋がいた話」、心霊スポットに入り込み、紙垂がかかった扉の鍵を開けたのだが…「廃校の怪談」など、書き下ろし新作30話を含めた57話を収録。怪談に塗れて溺れろ!

    『怪談聖 あやしかいわ』糸柳寿昭

    人と人の会話の中に、怪異の正体は隠されている――取材時の会話を可能な限り再現することで表した体験談は、行間に零れる息遣いに生々しい恐怖が匂い立つ。取材を続けて十数年、怪の伝道を続ける聖【ひじり】と呼ぶにふさわしい男が集めた実話怪談集!
    認知症の父親が風景に見つけた奇妙なもの「父親の幻覚」、取材の結果、体験者が気付いていなかった怪奇が明らかに「心霊スポットの帰り」、外に昭和の風呂屋街で流れた不気味な噂の真相「ぷかぷか浮いていた」、何気ない教室で教師が語る奇妙なこと「終わってる会」、ソーシャルディスタンスの世界で参加者の異変「オンライン飲み会」、人生の呪縛から逃れるため母親がとった行動「受け継がれる不幸」、もしあなたがとり憑かれたとき運命を左右するのは…「お祓いの重要性」ほか、オール書き下ろし55話収録!

    『怪談聖 とこよかいわ』糸柳寿昭

    「取材者と体験者の「会話」から引き出される「怪話」を、臨場感そのままに記録した実話怪談集。
    庭に開けてはいけない物置小屋がついた戸建て物件の怪「条件つきの物件」、職人たちに異様なルールが課される危険な現場。その理由とは…「これ守れよ」、踏切横の柵の上に載った奇妙な木箱。友人はそれが人の顔に見えるというのだが…「踏切の箱」、心霊スポットと化した空き家の写真。窓に写る老人の顔をよく見ると…「廃屋の顔」、天袋から病死体が出た貸家に纏わる戦慄の連作「お祓いしてた平屋」「天袋で死んだ」「感染した呪い」「消えた三人」他、軽妙な語りの内に潜む底知れぬ闇を覗かれたし。

    『怪談聖 おどろかいわ』糸柳寿昭

    体験者から、次の体験者へ…人の縁を辿って行き着いたのは、恐ろしき血族の禁忌。臨場感に震える会話の怪話!

    何気ない言葉の中に恐ろしい「何か」が隠されている。生まれつきのアザを見て息子が言う「あのとき痛かったね」、寝言で繰り返す不気味な歌と奇妙な予言「木曜日はダメな日」、本家から血筋に送り込まれる謎の「女児と毬」など。取材相手と交わした会話から怪の正体が引き出される戦慄の瞬間をご覧あれ。

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